狂おしいくらいの激情を…貴女に
「お祖父様、お父様、お母様おはようございます!」

「おはよう」
「おはよう!」
「おはよう、青蘭!」

絋琉が青蘭の椅子を引くと、青蘭が“ありがとう!”と微笑んで座った。

そして絋琉は、青蘭の少し後ろに控える。

「来週だな、成人式」
父親の富雄(とみお)が、微笑み言った。

「うん!」
「富雄は見たのか?青蘭の着物姿」
重富の言葉。

「それがさ。
見せてくんないんだよー」
「フフ…青蘭、お祖父様とパパには当日まで内緒って言うのよ!」
母親の(らん)が、クスクス笑いながら言う。

「そうか(笑)じぃじにも内緒か!」

「はい!知ってるのは、ママとちぃちゃんだけです!」

「絋琉は知ってるのか?」
不意に絋琉に視線を送り言った、重富。

「いえ。僕も知りません。
当日まで内緒だそうです」
「そうか。
…………きっと、綺麗だろうな……!
なぁ、お前もそう思うだろ?絋琉」

「え……」
意味深な重富の視線に、思わず視線を逸らす絋琉。

「ご主人様。もうそろそろ、お時間になります」
「…………あ、あぁ」
大路がすかさず声をかけ、ダイニングから重富を連れ出した。

ドアを開け重富が出ると、大路は絋琉に耳打ちした。
「絋琉。
お前はご主人様に、カマをかけられている。
動揺は“想いを、見透かされる”
お嬢様のお傍にいられなくなるぞ。
気をつけなさい」


それから青蘭は、大学へ行く準備をする。
青蘭の身支度を整えるのを、メイドの巴山(ともやま) 千草(ちぐさ)(青蘭はちぃちゃんと呼んでいる)が手伝う。

「フフ…お嬢様、今日も可愛くって綺麗ですよ!
“充城さんも”きっとそう思ってますよ!」

「そうかな?
充城からしたら、私は子どもだろうし……
さっきだって、言葉に詰まってたでしょ?」
切なく瞳を揺らす。

「お嬢様…」

“そうじゃない”と言ってあげたい。
宝来家の中で千草だけは、絋琉と青蘭がお互いを想い合ってるのを知っているのだ。

でも、言えない━━━━━━━

想いが通じ合ったところで二人は………


決して結ばれることはないのだから。



「充城、お待たせ」
「はい。行きましょう」
微笑み言った青蘭に絋琉も微笑み、青蘭の鞄を千草から受け取った。

「行ってらっしゃいませ、お嬢様!」
丁寧に頭を下げる千草。

青蘭は小さく手を振り、出かけていった。
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