大事な大切な人
泣いていてもしょうがない
悲しんでもしょうがない
わかっていても
辛いものは辛い
「大林主任。
川崎さんがご挨拶を
と、言われています。」
と、私を探して来てくれた
ナース三年目の美幸ちゃん。
「うん。ありがとう。」
本当に情けない
ごめんね。
主任なのに
逃げ出して·····
深く深呼吸をして
階段を下りて行くと······
「大林さん。
ありがとうございました。」
と、赤ちゃんを抱き締め
頭を下げる川崎さんに。
「お力になれなくて
申し訳ありません。」
と、頭を下げる。
川崎さんの奥様は、
今夜 赤ちゃんとご主人と
三人で過ごして
明日の朝 荼毘に付す。
赤ちゃんは、暫く入院をする。
出産には早かったので。
奥様は、赤ちゃんの泣き声を
きいて、微笑まれて
亡くなった。
忘れられない
綺麗な······顔·······
つくづく
自分の力の無さに
居た堪れなくなる。
川崎さんにご挨拶して
師長にお詫びをして
美幸ちゃんにお礼を言って
( 呼びに来てくれた看護師 )
病院を後にする。
中庭のベンチに腰掛け
空を見る。
何事もなく
過ごして欲しかった。
なぜ?彼女が?
と········
「そんなに辛いなら辞めたらどうだ?」
いきなりの言葉に
振り向くと
白衣を着た男性がいた。
「知りもしないくせに。」
いきなりの言われように
自分ではない返し方をした。
「知らないな。
だが、どうにもならない物は
どうにもならない。」
と、言い捨てる。
この男に
「最低なんですね。
そんな医師が
この病院にいるなんて。」
と、話す事もたまらずに
立ち上がり
頭だけを下げて
立ち去った。
どこの?どいつ?
なんて考えたくもなかった。
人の気持により添えない
そんな医療従事者が
いることに
まして、自分の勤務する
病院にいるなんて。
だが、今日は
もう何も考えたくも
なかった。