怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
「職業柄色々考えちゃうんだけどさ、万が一糖尿病とかだったら食事制限されてないのかなって、まぁ、余計なお世話だね。もう行かなきゃ、じゃあね、ごちそうさま」

糖尿病……か。

笑って手を振る由美を見送ると、「おーい、注文入ったよ」と義さんに呼ばれ仕事に戻る。そしてしばらくしてから窓際の席を見てみると、その男性は綺麗に平らげた空のお皿をテーブルに残していなくなっていた。


「糖尿病が引き起こす脳卒中のリスクだって? そりゃあるに決まってるだろ、非糖尿病者に比べて発症リスクはニ~四倍だ、ってなんでそんな色気のない会話してんだ? この状況で」

「す、すみません」

ちゃぽん。と湯船の中で水音を立て、背後に素肌の相良さんを感じながら顎までお湯に浸かる。

相良さんと一緒に暮らし始めてあっという間に一ヵ月が経った。
帰宅して、食事を作って出来上がった頃に大抵彼は帰ってくる。そして今日も、そんな日常の夜が過ぎようとしていたけれど、相良さんと一緒にお風呂に入るのだけはどうしても恥ずかしくていまだに慣れない。

相変わらず大食漢の男性はほぼ毎日のようにメルディーに食べに来る。前は昼によく顔を出していたけれど、最近は夜の来店が増えた気がする。よく顔を合わせるので、気兼ねなく話しかけるといつも笑顔で応えてくれた。そして話の流れで彼は“木内”と名乗った。慶華医科大附属病院の近くの会社で営業マンとして働いているらしい。

うちの店を慕ってくれるのは嬉しいけれどね。

情事後のバスルームというせっかくの甘い雰囲気だというのに先日、由美がポロッと口にしたことが気になって、つい相良さんに医学的視点で尋ねてしまった。

木内さんが糖尿病だって決まったわけじゃないし、まだただの憶測にすぎない。
私が勝手に心配したって、大きなお世話だよね。

「ほら、なにをいつまで考えてるんだ。肩が冷たくなってる」

「ひゃ!」
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