怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
いつもはシャツにジャケットを羽織り、きちんと身なりを整えた恰好だけれど、木内さんもまさかここで私と会うとは思っていなかったのか、ギョッと目を丸くして驚いていた。

「ぐ、偶然だね、今日は健康診断だったんだ」

気まずいのを笑いで誤魔化す木内さんに、嘘をつかれたという寂しさが募る。

「血液検査でさっき血を採ったんだけどさ、この年になっても注射が苦手なんだよなぁ、あはは」

「……木内さん、どうしてそんな嘘つくんですか?」

黙ってここは騙されておくべき。と思ったのも束の間、木内さんの笑いに釣られることなく、つい真顔で心の声が口からこぼれた。

「え? 嘘、って……」

「入院患者さんのリストバンド、思いっきり袖から見えてますよ?」

本当に注射をしたのかはわからないけれど、腕をさする仕草をしたときにはっきりと動かぬ証拠が見えていた。

「えっと……」

木内さんの顔からはすっかり笑顔が消え、バツが悪そうに目を泳がし始める。
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