怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
医局ってなんか緊張しちゃうんだよね……。

ここはいわば医者の詰所のようなところで、よっぽどの用事がない限り立ち寄らない場所だ。ひょこっと医局のドアの前で顔をだして室内を覗いてみる。

白くて大きな長机の上には、資料やら飲みかけたままのペットボトル、新聞などなどが乱雑に放置されていた。

時刻は二十一時過ぎ。当直医にバトンタッチしたドクターたちはすでに帰宅している時間帯だ。年配の女医がひとりパソコンに向かっているだけで、あとは誰もいない。

相良さんもいないみたいだけど……今夜は当直じゃないって言ってたような。

あまりウロウロしていると不審がられるかもしれないし、今日は帰ろうかな。

「そこでなにしてるの?」

「わっ!」

不意に背後から声をかけられて大きく肩がビクッと跳ねあがる。振り向くと、まるで不審者を見るような目で私を見下ろす友梨佳先生が立っていた。

モデル並み友梨佳先生は私よりも二十センチほど背が高く、私はゴクッと息を呑んで見上げた。

「あなたは今朝の……えーっと」

「小野田です」

名前を名乗ると友梨佳先生は興味なさそうに「ふぅん」と鼻を鳴らした。

「あ、あの……今朝の患者さんの様子が気になって、突然目の前で倒れたから驚いてしまって」

木内さんがメルディーに通っていたことはもう友梨佳先生にも知られている。瀬戸先生が言っていた『友梨佳には気をつけてね』という言葉が頭に過るとなんだか緊張する。
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