怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
「狭心痛を起こしたのよ。念のため脳の検査もしたけど特に異常はなかったわ」

「そうですか、大事に至らなかったんですね、よかった」

ホッと胸を撫で下ろすと、友梨佳先生が鋭く私を睨んだ。

「よかったですって? あなた、メルディーの店の子でしょ? あの患者がしょっちゅう店で暴食してたって聞いたわよ。どうして今まで黙ってたの?」

「そんな、わざと黙ってたわけじゃありません。木内さんが糖尿病で教育入院していることも知らなかったし、もしかしてって思う節があったから相良先生には話したんですけど……」

「あの患者の主治医は聖一じゃないわ、私よ」

聖一……。

友梨佳先生の口から〝相良先生〟でなく、“聖一”という下の名前が出てチクリとする。

「それにひとつ聞きたいんだけど、木内さんが倒れる前、なにか変わった事はなかった? 血圧があがるような事をしてたとか」

友梨佳先生に問われて木内さんとのやり取りを思い起こす。

『そんなこと! 言われなくても自分がよくわかってるよ!』

まさか、あれがきっかけで?

私が余計な忠告をしたせいで木内さんを怒らせて、結果、血圧が上がったのだとしたら……私のせいだ。

「い、いえ……わかりません」

「そう」

私のせいだと思うのもただの憶測に過ぎない。だから「わからない」そう答えて友梨佳先生から視線を反らした。なんだか罪から逃れたみたいな気分になって、その日は一日気持ちがあがってくることはなかった。

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