怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
まったくもって寝耳に水だ。そんな噂があったなんて知らなかった。

もしかして、知らなかったのは……私だけ?

唯一職場で気の置けない仲である看護師の真美子も、初めから噂のことを知っていたけど、私があまりにも相良さんと付き合えたことに浮かれていたから、傷つくと思ってあえてなにも言わなかったのか、そう思うと自分だけが周りから取り残されたような感覚になって眩暈さえ覚える。

「小野田さん? どうしたの? 少し顔色が悪いみたいだけど?」

「すみません、なんでもないんです。私、仕事に戻らなきゃ」

強張った頬で無理やり微笑んで、私はペコッと頭を下げると早々に病室を後にした。


今日の仕事が終わり、偶然病院のロビーで結んだ髪の毛を解きながら歩いている私服姿の真美子を見かけた。彼女も仕事が終わってこれから帰るようだ。

「真美子」

木内さんに言われた相良さんと友梨佳先生が婚約者だという噂がずっと頭にこびりついていて、真美子なら相良さんと同じ脳外科だし何か知っているのでは、と声をかけた。

「あ、真希、お疲れ。今帰り?」

「うん、あのさ……」

真美子もこれから子どものお迎えやら買い物で忙しいはずだ。だから私は余計な話はせず、単刀直入に噂のことを聞いてみた。すると。

「は? 友梨佳先生と相良さんが婚約者だって?」

初めて聞くような話だ。と言わんばかりに真美子は目を見開いて数回瞬かせる。真美子も結構な情報通で、彼女が知らないのであればもしかしたら例の噂はデマだったのではないかとその反応にホッとした。

「なに、ひょっとして真希、そんな噂を信じて不安になっちゃったりしてるの?」

 鋭く私に図星を指すと真美子がじっと顏を覗き込んできた。

「え、ち、違うよ……少しだけ気になっただけで――」

おろおろ目を泳がせていたら、真美子がほらやっぱり不安なんじゃない。と小さく笑った。
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