怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
「出ないんですか?」

テーブルの上で鳴っているスマホは聖一さんのものだ。

続きをしたい。けど急患かもしれない。そんなジレンマに聖一さんが大きくため息をつき、名残惜しそうに身体を離す。

「悪いな」

スマホを手にした瞬間、私は聖一さんの表情が一瞬陰ったのを見逃さなかった。

聖一さん?

「すぐ戻る」

そう言い残し、彼は自分の部屋へ入っていった。

壁にかかっている時計を見ると二十二時を回っている。

こんな時間に誰からだろう、やっぱり急患かな……。

中途半端に解かれた胸元を整えて、小さくはぁと息を吐いたときだった。

「しつこい人だな、いい加減にしてくれよ」

彼の部屋から苛立ちを含んだような荒い声がしてハッとなる。

な、なに? いまの、聖一さんだよね?

急患だったらこんなぞんざいな言い方は絶対しない。同僚にだって温厚に接しているし、見当もつかない電話の相手が気になって、いけないとわかっていながら耳をそばだてると、「俺の気持ちは変わらない、そう何度も言ってるだろ」「彼女に危害を加えるようなことするな」など、断片的にそんな言葉が聞こえてきた。

彼女に危害? 彼女っていったい誰のこと?

なんか、穏やかじゃない雰囲気だけど……大丈夫かな。

不穏な空気にそわそわと落着きがなくなってくる。

もう一杯コーヒーのおかわりをして気持ちを紛らわせよう。

そう思い立ってソファ から立ち上がる。すると同時に、聖一さんがため息と共に部屋から出てきた。
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