怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
「私だったら聖一の将来を邪魔するようなことはしないわ、彼を想うなら少しは考えなさいよ」

周りの視線に気づいた彼女は少し気まずそうにしてスッと立ち上がった。

「ついでに言っておくけど、あなた聖一のお父様にお会いしたことはある?」

「え?」

唐突に聖一さんの父親の話になり言葉に詰まる。私の戸惑う表情を見て悟った友梨佳先生がゆるゆると首を振る。

「ここだけの話、聖一のお父様はスマートな方だけどとても利己主義な人でもあるのよ、あなたが太刀打ちできるような人じゃない。聖一ともし一緒になるつもりなら相当の覚悟がいるわよ」

相当の覚悟……。

友梨佳先生に言われてその言葉の重みにごくりと息を呑む。

太刀打ちできないなんて言われたけど、聖一さんを想う気持ちは誰にも負けない。

「色んな覚悟がなければ、きっと相良先生と一緒になることなんてできません」

「ふぅん」

友梨佳先生がじっと私の顔を覗き込む。まるで私の真意を見定めているようだ。そして両手を腰にあてがって、はぁと深く息を吐きだした。

「確かに聖一と一緒になるなら色々面倒な壁があるわね、特にあのお父様なんてものすごく癖が強くて面倒くさいんだから、きっとうんざりするわよ?」

「面倒くさい人なんて、世の中たくさんいますから」

ひょいと肩を竦めて笑って見せると、友梨佳先生は私の反応が意外だったのか一瞬目を丸くしてからやんわりと細めた。

「あなた、面白いわね。まぁ、せいぜい頑張りなさい」

それだけ言うと、友梨佳先生は私の横を通り過ぎその場を去っていった。

もしかして、友梨佳先生って案外いい人なんじゃ……。

彼女の緩やかな髪から香る残り香がふわっと鼻を掠め、いつまでもその香りが鼻の奥で燻っていた。
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