怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
聖一さんがアメリカ行きを断ったのは、きっと私を置いてはいけないからだ。友梨佳先生に『あなたのせいでしょ?』そう言われた時に直感した。婚約を破棄されても彼の背中を押せる友梨佳先生は芯の強い人だと思う。

「あ、ほら、お父さん今笑ったわよ。真希が来てるってわかって嬉しいのね」

ふふっと笑う母に慌てて作り笑いを向けて父の顔を見る。すると目が合い〝真希、元気か?〟という父の言葉が頭に伝わってくるような気がした。

「ふふ、本当だ。お父さん、今日は機嫌がいいみたいだね」

口角をあげたり目を細めたりして笑っているかと言われたら、そうではないかもしれない。けれど、私や母から見たらやはり〝笑っている〟ように見える。

はぁ、いったい私はどうしたらいいの?

私だって聖一さんの将来を応援したい。でも、離れ離れになるなんて嫌。だからといって両親を残して彼と一緒にアメリカへ行くなんて……できない。

どちらを選んでも苦渋の決断を迫られることになる。私は先行きの見えない将来に人知れずため息をついた。


千田記念病院を後にし、東京へ戻る頃には冷たい雨がぽつぽつ降り始めていた。スマホを見ると聖一さんからメッセージが入っていた。

『親父さんはどうだった? 今夜は早めに帰れそうだ。夕食はこっちで適当に済ませる』

聖一さんのメッセージを見ただけで、いまにもかじかんで動かなくなりそうな指にほんのり温もりを感じるようだ。だけど、友梨佳先生に言われたことが頭を過ると、すぐにその熱が引いてしまう。

もう、うじうじ悩んでいたってしょうがないじゃない。やっぱり直接聞いてみよう。

私はグッと拳を握りアメリカ行きを断った本当の理由と、ときどきかかってくる電話の相手についてこちらから尋ねる決心をした――。
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