怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
「どうして話してくれなかったんですか?」

今にも震えだしそうな声でぽつりと呟くと、聖一さんがはぁとため息をついた。

「黙っていたことは謝る。正直、マラフィン総合病院から声がかかったときは嬉しかった。自分の腕が認められたと思ってさ、けど……」

聖一さんはまつ毛を下げ視線を床に落とす。そして言いにくそうに口を開いた。

「真希の親父さんのことを考えたら、一緒にアメリカに来て欲しいなんて言えなかったんだよ」

「やっぱり私のせい……だったんですね」

言い終わった後にポロリと涙が零れ落ちる。聖一さんが顔をあげたのと同時に私は咄嗟に雫を手のひらで拭った。

「私のせい? そんなこと誰も言ってないだろ」

聖一さんの苛立ちを含んだ口調に私の心がささくれ立つ。

「友梨佳先生に言われたんです。私の存在が聖一さんの枷になっているって」

「なんだって?」

「私、自分が情けないです。肝心なことを知らないで……これで恋人って言えるのかなって」

私、何を言ってるんだろう。これじゃただ聖一さんを困らせているだけ。

一緒にアメリカへ行くことになれば障害を負った父、介護をする母を残していくことになる。そんな私の気持ちを考えての決断だったというのに、今私の胸の中でモヤモヤと渦巻いているものは友梨佳先生への醜い嫉妬だ。

「すみません。少しひとりにさせてくれませんか」

「あ、おい、真希!」

呼び止める彼の声をはねのけるようにくるりと背中を向け、私は部屋へ転がりこんだ。
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