怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
「はぁ、はぁ」

喉の奥に冬の冷たい空気がダイレクトに刺さるようだった。空気の塊のような息を吐くと、目の前に白いモヤがかかる。

闇雲に走ってマンションから飛び出したのはいいけれど、すでに深夜0時を回っていて、どこに行くというわけでもなく私は走り続けていた。

「きゃっ」

寒さを感じる余裕もなかったため身体が麻痺していたのか、足がもつれて受け身を取ることもできず、私はそのまま地面に倒れ込んだ。大の大人が何もない道で派手に転んだりして情けない、恥ずかしい。タクシーの運転手がチラッと私を怪訝な目で見て走り去っていく。

何してるんだろ、私……。

見る間に眉間に皺が寄り、たぶん私の顔は子どものような泣き顔になっているに違いない。深夜で人通りもなく誰に見られているわけでもないのに倒れ込んだまま片手で顔を隠す。すると、ふっと糸が切れたみたいになって口から嗚咽がこぼれ、涙が溢れた。そして極めつけに頭を冷やせ、と言わんばかりにしとしとと雨が降ってきた。

あぁ、最悪。
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