怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
「痛っ!」

「こら、我慢しろって」

マンションへ戻り、シャワーを浴びるとすっかり私は体温を取り戻した。心配をかけるから膝を擦りむいたことは聖一さんに言わないつもりだったけれど、歩き方に違和感があったようですぐにバレてしまった。そしてどんな小さな傷でも菌が入ると後々大変なことになると言って、過保護なくらいに傷の処置をしてくれた。

「よし、これでいい。そういえば前にもこんなことがあったな」

私がまだ中学生だった頃、家に帰る途中に転んで膝を擦りむいたことがあった。

あのときも『ドジ』だなんて言って笑って手当してくれたっけ。

そんなふうに思っていたら聖一さんも同じことを思っていて嬉しくなる。

輝くような笑顔にドキリとして、もしかしたら彼を意識し始めたのはあのときからだったのかもしれない。

「ありがとうございます。もう大丈夫です」

私が微笑むとそれに安心したように聖一さんも笑って、ソファに座る私の隣に腰を下ろした。

「親父のことは気にするな」

気にするなと言われても、もう私の頭の中にはお父様の言葉がべとりとこびりついて離れない。思い出したら微笑んだ顔が強張り私は視線を落とす。
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