怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
「お父様は、聖一さんがアメリカへ行くことを望んでいるんですよね?」

マラフィン総合病院で臨床医をしていた経験があると言えば、医師なら誰でも一目を置く。お父様だって彼のことを誇らしく思うだろう。すると、聖一さんが改まったように小さく咳払いをした。

「実は俺と親父は昔から反りが合わなくてさ、アメリカから帰国して実家の病院に入らなかったのにも理由があるんだ。と言っても、今思えば俺が子どもみたいに意地になってるだけかもしれないが……」

聖一さんの実家は相良総合病院という大病院だ。それなのにアメリカから帰国してわざわざ別の病院で入職したことは以前から不思議に思っていた。家業以外の別の場所で経験を積むためかと初めは思ったけれど、どうやら別の理由があるようだ。

「親父は脳神経外科医として名の知れた医者で、将来は親父の後を継ぐつもりで俺も同じ道を歩んできた。けど、十年前に母が亡くなってから親父はすっかり変わってしまったんだ」

聖一さんのお母様、亡くなってたんだ……しかも十年前って。

私が聖一さんに告白したのも十年前、おのだ屋に顔を見せなくなったのもそのくらいの時期だ。

告白を断ったのは初期臨床研修医で半人前だったらって言っていたけれど、お母様が亡くなったことであのときの聖一さんは精神的にも参っていたに違いない。

「変わってしまったというのは……」

「まるで自分が医者だということを忘れたかのように白衣をまとわなくなった。患者に慕われて頼りにされている親父は俺の自慢だったんだけどな、すっかりビジネスに走って、しょっちゅう俺と衝突するようになってさ」

初めて聞く聖一さんの胸の内だった。切なげに眉を潜め、その表情からずっと彼も誰にも言えずにひとりで悩んでいたのだとわかる。
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