怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
「では、私たちはこれで」

アパートに案内されてひとまず相良家の使いの男性たちから解放される。玄関のドアを閉めてため息とともに背を凭れた。二階の角部屋、八帖ひと間のワンルーム、部屋の隅にはマンションにあった私物がすべて運び込まれていた。

まったく、用意周到ね。

マンションの管理会社をなんとか言いくるめてあの部屋を開けてもらったのか、プライベートもなにもあったものではない。怒り、失望、様々な負の感情が胸の中で渦巻いて、私はそれを振り切るように首を振る。そして気を紛らわすように荷物を片付けることにした。

あ、これ……。

手前にあったビニール袋をあけるとバッグが出てきて、中からひらりと名刺のような紙が落ちた。拾い上げると、それは初めて聖一さんとデートしたラウンジのショップカードだった。見た瞬間、あのときの記憶が一気に蘇る。

ずっと片想いしていた人とのデートに胸を弾ませて、ドキドキと高鳴る心臓を宥めるように何度も抑えたのを、まるで昨日のことのように鮮明に思い出す。
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