怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
そして数日後――。

予想通り、私の妊娠が発覚した。

『小野田さん、お腹の赤ちゃんはどう?』

「はい、順調みたいです。今日は休んでしまってすみませんでした」

今日は検診の日で、仕事も午後から行くつもりにしていたけれど「無理しないようにと」栗原さんの好意で一日休みをもらった。

『いいのよ、ゆっくりしてね』

聖一さんの子を妊娠している。検査前からそんな予感はしていたから、実際に医者から七週目に入っていると告げられてもさほど驚きはしなかった。むしろ改めて喜びを身に感じて涙が出た。厨房の従業員たちに妊娠のことを報告したら自分のことのように喜んでくれて、みんなの優しさには感謝してもしきれないくらいだ。

私は栗原さんとの電話を切りスマホをポケットにしまった。

夕暮れ時、オレンジ色がかった海が目の前に広がっている。今まで海をこんなに間近に感じたことはなかった。気持ちが沈んだとき、なんとなくこの海を見渡せる浜辺に足を運ぶようになった。水平線を見つめていると、あの向こうに聖一さんがいるような気がする。

ここに聖一さんとの赤ちゃんがいるんだよね。

そっと手をお腹にあてがい心の中でしみじみ呟く。

妊娠が発覚する前のほうがなんとなくつわりがひどかったような気がするけれど、ここ数日落ち着いている。せっかく休みをもらったんだし、気分転換に海を見ようとひとり浜辺にやって来たけれど、先々のことを考えるとあまり明るい気持ちにはなれなかった。
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