怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
お父様は戸惑いを滲ませた口調で静かに語りだした。

聖一さんのお母様は紗枝さんといい、お父様と結婚し聖一さんも生まれて幸せな生活を送っていた矢先に脳腫瘍が見つかった。良性の腫瘍だったため、治療しながら数年経過観察していたけれど、症状が悪化してきたため手術することになったらしい。

「そしてその摘出手術の執刀医が私だったんだ。しかし……」

術中に容体が急変し、そのまま帰らぬ人となってしまった。手術はうまくいったのに結果が伴わなかったことを、お父様は長年ずっと悔いていたようだ。

「紗枝は私にとってかけがえのない存在だったにも関わらず、病から救うことができなかった……情けないことにそれ以来、医者としての自信を失ってしまったんだよ。大切な存在は、時として最大の弱みになるものだ」

聖一さんが立派な医者になるためには、自分と同じ轍を踏ませてはいけない。だからお父様は、私との結婚を頑なに反対していたのね……。

その胸の奥でずっと誰にも言えずにひとりで過去の悲しみを引きずっていたのかと思うと切なさが込み上げてくる。

「まったく、自分がそういう経験をしたからって勝手な思い込みを俺に押し付けないで欲しいな」

お父様の話を聞いて、やれやれと言わんばかりに聖一さんがため息をつく。
< 224 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop