怜悧な外科医の愛は、激甘につき。～でも私、あなたにフラれましたよね？～

その昔、我が家は“おのだ屋”という定食屋を営んでいた。一人娘だった私はよく店の手伝いをさせられ、中学へあがる頃には仕込みの準備をひとりで任されるようになった。はじめは店の手伝いなんて嫌で仕方がなかったけれど、だんだん料理への面白みを感じるようになって、気がついたら父と一緒に肩を並べて厨房へ立っていた。

そんなある日。

近所にある慶華(けいか)医科大学の男子学生さんがふらっとひとりでうちの店へやってきた。

周りの人よりひと際背が高く、利発そうな切れ長の目に細い顎のラインが印象的で綺麗な顔立ちをしていた。いつも彼が座るのはカウンターの奥の席。口数は少なく、初めの頃は挨拶を交わすのみで、時折医学書などをパラパラめくってはいつも難しげな表情をしていた。

そんな彼に対して両親が気さくに話しかけていくうちに、だんだん打ち解けていって私ともよく言葉を交わすようになった。