怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
色とりどりの秋の紅葉に囲まれた昼下がりの千田記念病院にたどり着くと、ちょうどエントランスのところで母と出くわした。

「あら、真希、もう来たのね。お父さん、午前中は眠たかったみたいでずっと寝てたわよ」

脳障害の後遺症で、日にもよるけど睡眠時間がやたら長いときがある。このまま目覚めなかったらどうしよう、だなんてふと不安になったりもするけれど、大あくびする姿を見たら気が抜けたみたいにホッとする。

父の病室は四人部屋で、全員意識障害のある患者さんだ。仕切りのカーテンの向こうでその家族が一方通行の会話をしているのが聞こえると、なんだかやるせなくなる。

「お父さん、来たよ」

今しがた起きたばかりの父は、眠たそうな顔をして私に気がつくとうっすら笑った。

今日は、父の顔を見に来たついでに母に言わなきゃいけないことがある。相良さんとのことを反対していた母に“結婚を前提に付き合っている”と。

いくら反対されてももう子どもじゃないんだし、好きな人くらい自分で決めたい。

そう決心して、他愛のない会話の合間にタイミングを見計らい、話を切り出そうとした。

「あのね、お母さん」

「ん? なに?」

父の洗濯物を畳み終え、棚に全部しまい終わると、母が私の隣に腰を下ろした。

「私、今……相良さんと付き合ってるの。結婚を前提に」

「えっ」

「一緒に住もうって言われてる」

何度も目を瞬かせて、面食らったような顔をする母を見ると、やっぱり言わなければよかったかな、と一瞬後悔する。
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