もうお揃いだなんて言えないや。
数ヶ月前──。
彼がお店で手に取ったスニーカーを見て「私も同じの買っちゃおうかな」と軽く口にした。
お揃いのものを嫌う彼。
どうせ断られる。
そう思ったけれど「いいじゃん」という返事が返ってきて、私は浮かれて購入したのだ。
帰宅後、箱から出したスニーカーを見て「本当、私達のセンスって合わないな」と本音が溢れる。
それでも、この時の私は幸せだった。
彼とお揃いのものが持てるなら、自分の好みなんて二の次だったから。
だけど、それからそのスニーカーを履くのはいつも私だけ。
遠出のデートも、近所のスーパーも。
「もしかして、本当はお揃いで買うの嫌だった?」とは聞けなかった。
だって、彼の返事を聞くのが怖かったから。
可笑しいね。
昔は何でも言い合えたのに。
彼を好きだという気持ちは今も変わらない。
でも、いつの間にかその想いよりも、虚しさのほうが大きくなってしまったのだ。
それに気づいた時、もう過去のようには戻れないということを悟った。
別れを告げたのは私のほう。
彼のことが好きなまま離れたかった。
幸せな思い出が一つでも多いうちに。
駅に着くと、明るい照明が泥だらけになったスニーカーを照らす。
もう彼が同じスニーカーを履いても、お揃いには見えないや。
ボロボロになるまでよく頑張ったよ。
キミも、私も。
だから、今日でサヨナラしよう。
そして、今度は自分好みのスニーカーを買って新しい毎日を歩き始めるんだ──。