気づいたらそこは沼だった
「次の方どうぞー」

私が呼ばれ、ツバサが待つ場所に1歩1歩進んでいく。緊張で足が震え、もつれて転ばないようにゆっくりと。

「どうも〜」

目の前に待ち焦がれていたツバサが。画面通り…ううん、それ以上にかっこよくて息を飲む。

「名前は?あ、そのパーカー俺のブランド?」

あまりのイケメンさに見とれていると何も発しない私に変わって話題を振ってくれる。あーもうどうしよう。

「すき…」

やっとの思いで口から出た言葉は蚊の鳴くような声で小さく

「ん?なんて?」

ツバサの耳には届いていなかった。でも、優しく聞き返してくれて目線を合わせて微笑んでくれるだけで私には十分過ぎるほど嬉しい。だってツバサの瞳に私が映って今この時間だけは私に笑いかけてくれるんだもん。

「あの!私のは名前はアイリって言います!ずっとあなたのファンです。プレゼントボックスに手紙を入れたのでぜひ読んでください!!」

ここで告白なんかして痛い女って思われないように必死に考えてきた言葉を伝える。

「アイリね、了解。手紙読むわ。ポーズは3パターン撮れるけどどうやって撮る?」

うっわ、サラッと名前呼んでくれたのが嬉しくて

「もう1回名前呼んでください…」

なんて図々しくお願いすると

「アイリ、今日は来てくれてありがとう。そのパーカー似合ってる。あ、靴も?いいやん」

って最高のリップサービスを貰い、私の体温は急上昇して一気に顔中が熱くなる。
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