可愛がってあげたい、強がりなきみを。 〜国民的イケメン俳優に出会った直後から全身全霊で溺愛されてます〜
 彼女はちらっと一瞥をくれると「橋本さん」とわたしの名を呼んだ。

 わ、来た。

「は、はい」

「あなたに責任を取ってもらおうと思って」
「えっ、責任……ですか?」

 向井さんは表情を変えずに、いつもの冷静な声で話を続けた。

「最近、榊原、がたがたなのよ。セリフをすっ飛ばしたり、相手役にあやうく『郁美』って言いそうになったり」

「えっ、そ、そんなことがあったんですか」

 向井さんは頷き、「まったく、榊原がここまでポンコツだと思ってなかった」とため息まじり。

「それで……わたしは、いったいどう責任を取れば」

 きっと……別れなさいって言われるんだろうけど。
 そう言われたら、なんて答えればいい?
 わたしは助けを求めるように宗介さんを見た。

 でも、彼は特に慌てた様子もなく、テーブルに腰をかけて腕を組んで、向井さんの次の言葉を待っている。

 唇にかすかに笑みさえ浮かべて。
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