可愛がってあげたい、強がりなきみを。 〜国民的イケメン俳優に出会った直後から全身全霊で溺愛されてます〜
***

 で、その日の夕方。

 帰り支度をしていると、知花がわたしのところにやってきた。
「あーあ、あっというまに帰っちゃいましたね、宗様。アピールする暇もなかった」

 知花は不満げに唇を尖らせている。

「もう少し長くいる予定だったらしいけど、急遽、撮影中のドラマが撮り直しになったんだって」

「残念。でも、素敵でしたね〜。これからも全力で推します。郁美先輩、あんなに近くにいて、よく平気でしたね」

 平気ってわけじゃなかったけど、いろんな意味で。
 
「まあ、現実を超越してるようなものすごいイケメンとは思ったけどね」
「じゃあ、郁美先輩も一緒に推し活、しましょうよ」
「うーん、それはパス」

 なんでですかぁと食い下がる知花に閉口していたら、ちょうど電話が入った。

「橋本さん、2番」
「はーい」

 わたしは知花に手を振ってから点滅しているボタンを押した。
「お待たせしました。橋本です」と応答すると……。
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