可愛がってあげたい、強がりなきみを。 〜国民的イケメン俳優に出会った直後から全身全霊で溺愛されてます〜
「はい?」
 振り返ると、彼はいつもよりもさらに強い眼差しでわたしを見つめていた。

 ばくん、と心臓がはねる。
 視線が強力な磁力のように感じられて、吸い寄せられそうになる。

「あのさ……」

 そう言ったきり、彼の唇は動きを止めた。

 目を伏せて、ためらうような表情を見せ、言葉を詰まらせている。
 緊張した面持ちで。

 何を言いたいの……
 わたしはじっと、彼の次の言葉を待った。


 でも、彼はふっと表情をゆるめて「なんでもない。じゃあ気をつけて」と手を振った。

「はい。じゃあ、ありがとう……」

 わたしが答えている間に、エレベーターのドアは閉まっていった。
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