六〇三号室の女
――実を言うと、俺は見ていた。


昨夜、午前二時を過ぎた頃だったろうか。

六〇三号室から女が出て行くのを見てしまったのだ。

その女はタイトな黒のツーピースを着込み、けばけばしい派手な化粧をしていた。

一見して水商売風の女だった。

俺好みの美人でスタイルも抜群だったのでよく覚えている。

すぐにその女を素っ裸にしてベッドに押し倒してやった。


俺の頭の中でということだ。


死亡推定時刻など細かいことはわからないが、多分あの女が殺ったのだろう。

そう考えると寒気を覚える。

おそらくはこの後、捜査員の連中がホテル中の部屋を聞き込みにまわるのだろうが、俺は女のことを話すつもりはなかった。

率直に言えば面倒だからだ。

ようやく仕事から解放されて得た貴重な時間を無駄にはしたくない。


俺はそれほど善人じゃあないんだ。

俺が協力しなくとも、いずれ犯人は捕まるだろうさ。
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