やり手CEOはお堅い秘書を手放さない
どうやって店を出てここまで来たのか。
きっと彼は酔ってしまった私を介抱してくれたのだろう。けれど、お互いに裸ということは……?
それに、体には一夜の名残があるような気がしなくもなく……もしかして……もしかしなくても!
胸の内に衝撃が走る。
どうしよう。どうすればいい?
だって彼は自社の社長──新藤隆文(33歳)。国内のみならず、欧米にもレストランを展開するコバルトユニオンのCEOなのだ。
そして私は彼の秘書。
秘書ごときがCEOと体の関係を結ぶなんて一大事、もし周囲にバレたら悪評を流されて、会社を辞めなきゃいけなくなるに違いない。
しかも彼は、食器メーカーであるマクレガーの社長令嬢との縁談が持ち上がっており、前向きに進めていたはずだ。
立場的にも世間的にも、絶対に情を交わしちゃいけない相手だ。
ごくんと息をのみこむと体の中にひんやりした空気が流れて、手の指先が緊張で冷たくなった。
とりあえず、逃げなくちゃ。
でもここはどこ?
知らない土地とか、駅から遠いとか、場所によってはさっさと逃げるのが難しいかもしれない。