やり手CEOはお堅い秘書を手放さない


 ドキドキしながら視線のみを動かすと、ベッドサイドの棚に置かれた空のコップや雑誌などが目に入った。

 窓にかかるカーテンは遮光性があるものの半開きで、壁に掛けられたカレンダーなどの生活感のある雰囲気は、ホテルの一室ではなく彼の自宅だと思える。

 自宅ならばマンションの一室であり、何度かエントランス前まで迎えに来たことがある。それならば、最寄り駅まで近い。

 彼が気づかないうちにベッドから抜け出してここから去り、一夜の出来事をなかったことにしなくちゃならない。

 彼に夢だと思わせることは可能か。きっと不可能だろうけれど、何を言われてもしらを切り続ければいける……かもしれない。

 仕事一筋で女性としての魅力皆無な私を抱くなんて無謀なこと、彼だってお酒を飲んで酔っていたに違いないのだから。

 まずは体の上に乗っている腕をそっとどかし、マットを揺らさないよう、慎重にゆっくりベッドから下りた。ついで足を忍ばせて散らばっている衣類を拾い、素早く身に着ける。

 乱れた髪やメイクを気にしてなんかいられない。急いで家に帰って身だしなみを整えなければならない。

 なぜなら、今日も仕事なのだから!


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