やり手CEOはお堅い秘書を手放さない
「ふぅ、よかった……」
急いで帰宅してシャワーを浴び、髪をきっちりまとめ、なんとかしわ一つないスーツを着て出社することができた。
黒髪のアップスタイルに、地味めな色のかっちりとしたスーツ。それにデキる女っぽいメガネ。社長秘書としての武装は完璧。
いつもと同じスタイルにできたのは、時間がないわりによくやったと自分でも褒めたい。これならば誰も外泊したなんて思わないはずだ。
そう、彼さえも。
起きたときに私が隣にいなければ、昨夜の出来事は夢だったかと、自分を疑うに違いない。そのうえで私の完璧な姿を見れば夢疑惑は確定へと変化するだろう。
よし……いける、と思う!
エレベーターに向かってかつかつとヒールを鳴らして一階ロビーを歩く私の行く手に、作業服姿でモップを持つ白髪頭の女性の姿がある。
武装した表情を緩めて、笑顔を浮かべた。
「あ、酒井さん、おはようございます。いつも清掃ありがとうございます」
「あら瑠伽ちゃん」
ゆっくり近づいてくるのは社屋を清掃してくれる酒井さん。清掃会社CUサービスのパート社員さんだ。おそらく70歳手前くらいの彼女と私は、親しくしている。