やり手CEOはお堅い秘書を手放さない
それでも業界最大手の企業との縁が結べなければ、会社にとって不利益になりそうだ。
父子ともども縁談に乗り気だったはずで、無下にすれば反感を買うこともあり得る。
たとえば流通を妨害されたりしないだろうか。社長が非情と呼ばれた手口の一つなのだけど……。
不安を口にすると、彼はその点は心配ないと笑った。
「きみがメーカーとのつながりを強固にしてくれているだろう。それに、きみが考案して勧めてくれた社員やパートに対する『勤続功労賞』や『優秀社員・優秀パート賞』も評判がよく、社員のやる気につながってる。きみは俺よりも人心掌握に長けてるんだ」
「そんな……過分な評価です」
まだこの状況が信じられなくて、おろおろと視線をさまよわせた。
ほんとうに、酒井さんも社長も、私を求めている?
「瑠伽。きみを手放せないと、何度も告げただろう」
すっと席から立った彼がそばにきて、ドキドキしてうつむく私の手を握った。
「瑠伽がもっとも心をつかんでいる人は、俺なんだから」
「社長はずるいです。昨日は、なにも言ってくれませんでしたよね……。だから、私は眠れなかったんですよ」