やり手CEOはお堅い秘書を手放さない


「ずるいのは瑠伽だ。あの夜を忘れられた俺のショックは、きみには計り知れない」

 はぁ……と深いため息をついてうつむくので、冷や汗がどっと噴き出た。

「覚えてさえいてくれれば、こんな面倒なことをしなかったのに」

「そ、それはっ、ごめんなさい!」

 忘れたうえに、なかったことにしようとしたり、気の迷いだと言ったり。思い返せばずいぶんひどい。

 なにも私に伝えなかったのは、忘れたことへの罰だったのかもしれない。

「……なにがあったのでしょう?」

 慎重に彼を見つめた。

「あの夜は、酔ったきみがかわいくて、愛しくてどうにかなりそうだったんだ……足元がおぼつかないきみを支えながら、耐えていたんだが……タクシーの中で無防備に体を預けられて、理性が崩壊した」

 当時を思い出している様子の彼は耳を赤く染め、ふと目を反らした。

「抱き寄せて何度もキスをして「俺の家に来るか?」と問いかけると、きみがうなずいてくれたんだ。だから部屋に連れて行って……それでも抱く前にちゃんと俺の気持ちを伝えた。『瑠伽を愛してる。結婚をしたい』と」

「そ……そう……ですか」

 胸がきゅんと痛んで、どんどん顔が熱くなっていく。

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