やり手CEOはお堅い秘書を手放さない
「それなら、すごくカッコイイ人なんでしょうね」
「もちろんさ。結婚とか関係なく、今度紹介させてちょうだいよ」
目じりにしわを寄せて笑う酒井さんの言葉をさり気なくスルーし、笑顔で「大変、遅れちゃう。それじゃ、また」と告げて、上階へのエレベーターに乗る。
ぐんぐん上がっていく階数表示を見て、だんだん緊張してきた。エレベーターから下りて廊下を歩くうちに、心拍数とともに血圧まで上がった心地がする。
社長と顔を合わせるの、気まずい……。
いまさらながらに怖気づくけれど、秘書の業務では彼とかかわらずにいられない。
鉄の仮面をつけて無表情で接するしかない。
出社後のルーティン、朝のお茶を準備して社長室に向かう。
深呼吸をしてドアをノックし、そっと開けると彼はすでにパソコンに向かっていた。
背筋を伸ばしてモニターを見つめる表情は真剣で、ぱらりと額にかかる少し癖のある前髪が、涼し気な目元を際立たせている。
彼は、いつもと同じ気をまとっていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」