やり手CEOはお堅い秘書を手放さない


 パソコンモニターから目を上げた彼の表情は、なんら変化がない。二重の目とすっきりした鼻梁と薄めの唇は普段と同じで、色香も怒りも気まずさも感じない。

 心配しなくてもよかったみたいだ。彼にとっては、なんでもないことだったのかも。

 彼は眉目秀麗なCEOだから、おモテになる。実際、取引先の女性に誘われることが多く、食事デートなども数多くこなしていた。

 だからこういう事態には慣れているのかもしれない。

 それはそれで、ショックなのだけど……。

 複雑な気分だけれど、ほっとしつつデスクにお茶を置いた瞬間、サッと手を握られて、ドキっと心臓が跳ねる。

「なんで逃げた?」

「えっ……逃げるとは……なんのことでしょうか?」

 額に冷や汗がにじんでくるけれど、引きつりながらも笑顔を浮かべ、精いっぱいに「さっぱりわからない」体を装う。

 しかし彼の目は穏やかだけれど、なにもかもを見透かすような威厳がある。

 手を握られたまま無言で見つめられる圧に、どんどん精神力が削られていく。なにか発言しなければ、この状態から抜け出せそうにない。

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