青い導火線 クセモノたちの狂詩曲
「走って!」

「ちょ……っ。わたし…………」

 有無を言わせずそのまま走った。

 校門への最後のストレートライン。一分前を知らせる声が聞こえてくる。

 ほとんど引きずられるようにして正門を潜り抜けた途端に、彼女の膝ががくっと砕けた。そのままばったり倒れこんでしまう。

「え、ちょっと」

「ごめ……なさ……」

 勢いで打ってしまったのか鼻の頭まで擦りむいてしまっている。

(おれのせいか!)

 がーん、と固まっている正人の後ろから、穏やかな、それはそれは優しい声がかかったのはそのとき。

「ひどいな、池崎くん。女の子の扱い下手すぎ」

 ぐりっと振り返った正人の目に、いつにもまして慈愛に満ちた表情の中川美登利が映った。

「大丈夫? 須藤さん」

「あ……」

 須藤恵の傍らに膝をつき、美登利は優しく彼女の体を起こした。

「あちこち擦りむいちゃってるね。保健室行こう」

 まだ肩で息をしている恵の背中を撫でてやりながら歩きだす。すれ違いざま美登利は口の動きだけで正人に言った。

『ヨクヤッタ、エライ』

 どういう意味だかわからない。正人は思わずその場にいた綾小路に尋ねた。

「なんすか? あれ。似合わないオーラ振りまいて」

「魚心あれば水心ってやつでな。……お手柄だ、池崎くん」

 風紀委員長にまで褒められて、正人はわけがわからなかった。




「それで? 話してみてどうだったの、美登利さん」

 昼休み。中央委員会室の片隅で。

「頭いいね、あの子」

 美登利は須藤恵と話したことを船岡和美に相談する。

「佐伯先輩のこと見抜いてる」

 へえ、と和美が感心する。

「でもね、せっかく頭はいいのに、自分では動かないもどかしいタイプ」

「……小暮綾香と主と従なわけか。なるほど、なるほど」

 洞察力に優れる和美は、こういう感覚的な話をするときには実に頼もしい。

「忠告したものの小暮綾香に聞いてもらえなったわけだ。逆に裏切者扱いされちゃった感じ? それで学校に来るのが怖くなっちゃった?」

「この場合、悪いのは誰?」

「誰も」

 和美は笑って即答する。

「誰も悪くない」

「そうだよねえ」

「ほっといたってすぐに別れることになるんだから、黙って見てればいいって言ってあげた?」

「言ったよ。でも須藤さん曰く、綾香ちゃんは一途だからなかなか離れたりできないんじゃないかって」

「ふーん。佐伯氏の交際日数記録更新できたりするのかな。あたしも賭けにのってこようかな」

「誰さ、そんなことしてるの」

「うちのクラスの男子」
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