青い導火線 クセモノたちの狂詩曲
 話し込んでいたので人が入ってきたことに気づかなかった。

「なにをこそこそしてるんだ」

 しゃがみこんでいたふたりは頭上から降ってきた声にびくっとする。

「えーと、恋バナ?」

「そうそう。恋バナ、恋バナ」

 綾小路が呆れた顔で立っていた。

「なにさ、昼休みにわざわざ」

「三年の文化祭企画案、驚くぞ」

「受け付けは今日の放課後からだよね」

「でかい企画だから早めにって俺に直接持ち込まれた」

 生徒会長兼文化祭実行委員会委員長に就任予定の一ノ瀬誠が説明する。

「規準は守ってもらうよう、いったん持ち帰ってもらったけど」

「三年生が全クラス合同でカフェを……」

「大正レトロカフェ」

「……をやりたいと」

 美登利と和美は目を瞠る。

「学食とピロティの全面解放と厨房の使用許可を要求された」

 綾小路は苦々しい様子だけど、

「いいと思う」

 美登利は手放しで賛成した。

「いいよ。おもしろいよ。三年生すごいよ」

「そうでしょう、そうでしょう! もっと言ってちょうだい」

 高い声が割り込んできた。

「高校最後の文化祭! 私たちは本気なのよ」

 三年の岩下百合香。元生徒会副会長で女子生徒のリーダー的存在だ。

「学食をレトロモダンなホール風に飾り付けて、着物にフリフリ白エプロンな女給さんスタイルの女子が接客するの!」

 見て! と手にしたファイルをめくって参考資料らしきページを開く。

「おおー。カワイイ」

「いいですね」

「そうでしょ、そうでしょ。それでね、女子がここまで体を張るんだから、男子はこうよ!」

 どうよ、と見開かれたページの写真には白シャツに黒のカマーベスト、丈の長い黒エプロンをまとった男性の姿。

「おおー。カッコイイ」

「……ギャルソンですか」

 でもこれって着る人を選ぶのでは。口には出さなかったが、百合香には伝わってしまったらしい。

「わかってるわよ、みどちゃん」

 美登利の肩を抱き寄せ、したり顔で頷く。

「ギャルソンは選りすぐりの男子にやってもらうから。それでこそ付加価値が付くってものだもの。それでね、みどちゃん。相談なのだけど……」

 いやぁな予感がしたものの、肩をがっちり掴まれてしまって逃げることができない。

「あの人にもね、やってほしいのよ、ギャルソンを」

「あの人って、例のあの人ですよね……」

「そうそう、例のあの人。彼がいるといないとじゃかなり違うと思うのよね」

「いやあ。あのひとはこういうことはしないんじゃ」

「だからみどちゃんに頼むのよ、なんとか説得してちょうだい」

「無理です」
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