青い導火線 クセモノたちの狂詩曲
「なに言ってるのよ! あの背と顔面偏差値の高さを無駄にはできないでしょう!」

「いや、だから……」

「文化祭の成功がかかってるのよ、みどちゃん」

「…………」

 誰か助けて。心底思ったというのに。その場から誰一人いなくなっていた。




「池崎くん。今朝はありがとう」

 廊下の個人ロッカーから午後の授業のテキストを取り出していると、須藤恵に声をかけられた。鼻の頭には擦りむけた傷と、両の膝小僧には絆創膏。

「ごめん。おれが無理やり引っ張ったりしたから」

 ふるふると両手を振って恵は小さく笑った。

「いいんだよ。池崎くんに連れてきてもらわなかったら、今日もサボってたかもしれないもん」

 須藤恵が同じクラスで、無断欠席で風紀委員会の要注意人物リストに載っていただなんて正人は知らなかった。知らないからあんな無神経なことができたのだが。

「よかったよ。おかげで中川先輩に話を聞いてもらえて、だいぶ気持ちが楽になったもん」

 なんの罪もない笑顔で恵が言い切る。

「もっと怖い人かと思ってたけど、そんなことないんだねえ。優しい人で安心したよ」

 それはないだろう。滅茶苦茶怖いぞ、あの女。

 真実を言うべきか言うまいか、悩んでいると視線を感じた。

 廊下の少し先、一年三組の教室の前から髪をポニーテールにした女子生徒がこっちを見ていた。正人ではなく恵を。恵も気がついてそちらを見る。途端に彼女は教室の中に入っていってしまった。

「友だち?」

「うん。そうなんだけどね」

 尋ねた正人に恵は泣き笑いの表情になって俯いた。




「百合香先輩のむちゃぶりなんか無視でいいと思うよ」

「そうですよ。だいたいそれって三年生の問題じゃないですか」

 放課後、中川美登利は坂野今日子と船岡和美と連れ立って屋上への階段を上っていた。それぞれ文化祭実行委員会の腕章を付けている。

 ペントハウスへの最後の折り返しに差し掛かったところで、腰壁の陰から人が飛び出してきて三人は驚いた。三年生らしい女子生徒がものも言わずに廊下を走り去っていく。

「…………」

 美登利たちは苦い表情で顔を見合わせるしかない。

 思った通り、屋上入り口前の暗がりにその人物がいた。

「うちら先に行ってるよ」

 美登利から鍵を受け取り、和美と今日子が屋上へ出ていく。開け放したままにした扉から、少し強さを増した日差しが差し込んでくる。
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