青い導火線 クセモノたちの狂詩曲
 命からがら逃れ出てきた正人のことを、廊下で拓己が待っていた。

「大丈夫かー、池崎」

「なんかわからないけど、あの女こえええー」

「ああ、うん……」

 ふっと遠い眼差しになって拓己は同意する。

「美登利さんて、とっても怖いひとだから。でも逆らったりしなければ、とってもとっても優しいよ」

「それ、フォローじゃないよな」




「よかったんですか?」

 お茶を淹れながら坂野今日子が美登利に問う。

「あの子のこと、欲しいんですよね?」

「まあ、それはまた後のことかな。このままだと綾小路が憤死しそうだからさ」

「誰がだ、誰が」

 突っ込みながら綾小路が入ってくる。一ノ瀬誠も後に続いてきた。

「坂野くん、これ入力頼めるか? 今日中にプリントして各部署に回してほしい」

「了解です」

「それと運動部の連中への注意文だな。体育祭直後に集中して一年生への勧誘行動が過激化しないよう……」

 今日子が忙しくなったのでふたりのお茶は美登利が淹れてやる。一口すするなり「まずいよ」と文句を言った誠に容赦のないデコピンが炸裂した。額をさすりながら誠は文庫本を取り出して読み始めた。

「文化祭に関しても、講堂の使用条件については早めに説明しておかないと、先走った連中がやかましくなるからな」

 ようやく腰を下ろした綾小路がじろりと美登利を見る。

「聞いてるのか?」

「うん……」

 頬杖をついて美登利は上の空の様子だ。

「実はさ、引っかかってたんだけど。池崎正人って、どっかで聞いたような名前」

「実は俺も思ってた」
 湯呑を置いて、綾小路が顎に指をあてる。

 はて? と首を傾げるふたりの横で一ノ瀬誠が事もなげに言った。

「生徒会長だろ。西城の、何代か前の」

 ページを繰りながらさらりと続ける。

「池崎勇人(はやと)。普通に考えて兄弟だろうな」

「なんでそれ、早く言わないの」

「え、だって、聞かれなかったし。わかってるのかと」

 横眼にふたりの顔を見て誠は棒読みに言う。

「ゴメンネ?」

(むかつくっ)

 思ったことは同じだったが負けを認めることになるのでふたりはそれ以上突っ込まない。
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