バレンタイン

「でもイヴをすっぽかされたんじゃあ、次のイベントこそは埋め合わせして貰えるんでしょう?」

「は? 次のイベント?」

「バレンタインよ。バレンタイン」


 倫子は人差し指でトントンと雑誌のバレンタイン特集を指した。


「さ…あ? 彼、イベントには余り関心ないみたいだから」

「バカねえ。そんな彼だからこそチャンスなんじゃない。バレンタインは、女の子から告白してもいい日なのよ? オンナからそーいう雰囲気に誘ったっていいのよ」

「はあ…そーゆーもんですか」

「そーゆーもんよ。ほら、このホテルなんてゴージャスでいいじゃない? “レースたっぷりの天蓋つきベッドで、王子様にお姫様抱っこされて…”だって……ぷっ」


 …「ぷっ」は余計だっつうの。


「ほらほら、早く予約しなさいよ。バレンタインはたった1日しかないのよ。ぐずぐずしてたら満室になっちゃうわ」

「は!? しっしないわよ、予約なんて!」


 一体 誰と泊まれってのよ!?

彼なんて嘘よっ!

彼どころか、告白する相手もいないのよおっ!


「も~…花姫ちゃんがしないなら、わたしが予約入れたげる」


 そう言って、倫子は私のケータイを勝手に持ち、カチカチと番号を押し始めた。


「…ちょっと やめてよっ!!」

「あ、もしもし? 雑誌に載っていたバレンタイン特別プランの予約をお願いしますぅ」

「ノリコッ」


 冗談じゃないわよ。

 ここで予約なんて入れられたら、例え後からキャンセルしたって、倫子に根掘り葉掘り詮索されるのは目に見えてる。

 はっきり云ってウザイのよっ。

 私が無理矢理ケータイを奪い返そうとしたその時、誰かがトントンと肩を叩いた。

 誰よ、この非常時にっ!


「あの~。初めまして。ハルヒさんですよね? 僕、倫子の婚約者の木下と申します」


 ガバッと振り向くと、そこには飽くまでも上品な能面お坊ちゃま。


「あ…はじめまして。安曇野 花姫と申します…」


「いつも倫子と仲良くして下さってるそうで。お噂はかねがね」



 …一体どんな噂なんだ?











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