バレンタイン
 見渡す限りのメルヘンな世界。

 金色の天蓋を従えた真っ白なベッドは、一人寝するには悲しいまでに広い。

 ずっと憧れだったまるで外国映画に出てくるような猫脚のバスタブには、紅い薔薇の花びらなんか浮いちゃったりして。


 .....本気で、侘しい。


 ああ 本当に好きな人とこういうところに泊まりたいものよね。


 ふと時計を見やると午後8時。


 ふて寝するには余りにも早く、かといってこの息苦しい空間でひとりで過ごす気にもなれなくて、私はホテルの最上階にあるバーへ向かうことにした。


 お酒は決して強くはないのだけれど。


 普段ならバーへ行こうなんて思うことはないのだけれど。


 この夜は何故か迷うことなくエレベーターのボタンを押していた。




 これが、私の運命を大きく変えることになるとは露ほども感じずに。









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