バレンタイン
響谷 蓮は、私より2歳年上の俳優だ。
元々は大学時代に所属していた劇団の舞台俳優だったが、天性の演技センスと類稀なそのルックスで演劇雑誌に取り上げられ、そこからメディアにも登場するようになり、現在では商業演劇はもとよりテレビドラマや映画でも、話題の作品にはほぼ名を連ねる人気若手俳優となった。
その作品ごとに、共演者との密会現場で写真週刊誌を賑わしているヒトでもあるけれど。
エメラルドの光が氾濫するこの現実離れした空間で、私は彼の端正な横顔をぼんやりと眺める。
夢うつつな感覚で。
いや、殆ど夢かも知れない。
彼の姿が目の前に現れるのは、いつだって夢のなかだった。
長い睫毛。
上品な口元。
繊細な指先。
そのどれもがすべて彼女に向けられている。
でも、不思議と嫉妬を覚えたりなどしない。
美しいふたりの姿は何処か霞がかっていて、まるで映画のようだ。
ああ なんて きれい。
ほんとうの恋を知らない私には、目の前の光景こそが本物のように思える。
あまりにも眩しくてそっと目を伏せたそのとき、胸の深い奥底に仕舞いこんでいた古いほのかなぬくもりが、ちらと息を吹き返すのを感じた。
あの雨の日の、古い記憶。