バレンタイン



 その日は朝からしとしとと秋雨が降っていた。



 雨が嫌いじゃない私は、学校の帰りに駅前の本屋への道をぶらぶらと歩いていた。

 12月の雨は流石に吐く息も凍らせる。

 素直に学校前からのバスに乗れば良かったかな?などと後悔をし始めていたそのとき、か細い微かな音が聴こえた。


「.....?」


 辺りを見廻してもさしたる異変は何もない。

 気になりつつも本屋の扉を開けようとしたそのとき、目の前のバス停のポールの下に置かれた段ボールが目に止まった。


「なんだろ。まさか爆弾とかないよね」


 恐る恐る近づいて箱のなかを覗くと、灰色の小さな塊がごそっと動いた。


「ええっ なにっ?」

「...みゃう」

「.....え?」


 灰色の塊と目が合った。

 それはキレイな緑色の目をしたやせ細った仔猫だった。


「す、捨て猫??」


 よくよく見ると、段ボールの内側には赤マジックで何やら書かれている。


 『お母さんがしんじゃいました。だれかひろってください』


 子供の文字だ。

 お母さん? この猫の? この子供の?


 とにかく、この寒い雨のなか、このちいさな猫は、ひとりぼっちにされたのだ。


「.....どうしよ...」




   
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