バレンタイン
鏡のように磨かれた人工大理石の床に、ゆっくりとした靴音が響いた。
息を詰まらせながら、私はその靴音の主の登場を待ち侘びる。
やがて、うねった障子張りのオブジェの影と、黒光りしている先の尖った革靴の爪先とが重なった。
私は恐る恐る、その靴の主の顔へと視線を上げる。
細身のパンツに包まれた長い脚を視線で辿り、引き締まった胸のラインから細い顎へと...。
―――――――――― 彼だ。
間違いない、この人だ。
私は、ずっとこの人を待っていた。
ずっと、この人に恋焦がれていた。
そして、私は一歩前を踏み出す。
ありったけの勇気を携えて。