あなたのいない暗闇を、光輝く世界に変えて

「リン…」

哲平がそう私を呼び…抱き締めてきた。

「哲平?何するの、やめて!」

「リン…俺だよ、トモ」

「今はそんな冗談はやめて!」
こんな時に一体何考えてるの?

「リン…ほんとに俺なんだよ…トモなんだよ」

そういえば…

哲平の声じゃない…

私の大好きなトモの声…

それに…微かに香る…
トモのグリーンノートの香水…


「何で…どういう…こ…と…」

「リン…ごめんな……俺、死んだみたいだ…」

「な…何バカなこと言って…」

「俺、あの日…これからの事を考えたくて海に来たんだ…もちろんすぐに戻るつもりで」

「うん…」

「それで堤防近くを歩いてたら、まだよちよち歩きの子供がいたんだよ…一人で…したら海に落ちそうになったから、とっさに手を掴んで引き上げたら、俺が落ちてさ…。海が冷たくて…動けなくなって…苦しくて……真っ暗闇の中にいて…」

「ん……」
はらはらと流れ続ける涙をそのままにトモを見た。

「うん…そしたらリンがずっと苦しそうな顔してるのが見えて…リンに会いたい!ってずっと願ってたら…今…哲平に入ってた…」

「トモ……私も会いたかった!ずっと会いたかった!早く帰ってきてよ!」

ガシガシとトモの…哲平の体を揺らしながら叫ぶ。

「ごめん…それはできない…」
そんな悲しい顔しないで!

「トモ!お願い!帰ってきて!でないと私、生きていけない…」

「ごめん……最後に俺…リンに、女のところに行ったんじゃないって、言いたかったんだ。あの人にいろいろ言われてたけど俺は相手にしてなかったからな!俺が好きなのはリンだけだから!」

「うん…うん…わかってたよ、私以外の女のとこに行くわけないって、わかってたよ……」

「そっか…信じてくれててよかった」

「…ねぇトモ…最後って…もう…行っちゃうの?…もう…さよならなの?」

トモは私の目を優しく見つめた。

「うん…もう…行かなきゃなんだ…」

「じゃあお願いトモ…最後に…抱いて…」

「リン……」

「お願い…トモ…」
もう涙でぐちゃぐちゃの顔で懇願する。

「俺じゃない体だけど…いいか…?」

「うん…絶対トモだってわかるから」

「ん…そっか…そうだよな…。リン、愛してるよ」

「トモ…私も愛してるよ…」

キスをしながらそのままベッドになだれ込んだトモと私…


身体は哲平なはずなんだけど、私をまるごと愛してくれているのは見た目も中身も紛れもないトモで。


心の内をさらけ出す愛の言葉も、

私を見つめる瞳の奥に見える熱も、

私がいつもねだる好きなキスも、

私の身体をまさぐる時のクセも、

私を淫らに鳴かせる指遣いも、

私のナカの一番イイとこをわかってて執拗に攻めてくるのも、


全部、全部、トモだった。


私達は残された時間を惜しむように夜が明けるまでお互いの身体を心ゆくまで貪り、愛しい人の名前を呼び合い、愛を伝え合った。


もう意識が遠のきそうな時に聞こえたトモの言葉が、それからの私の生きる勇気になった。


『リン…俺達は別れた訳じゃない。

俺はいつでも、どこにいてもリンを愛してる。

だから、精一杯生き抜いてから、俺のとこにおいで。

それまではリンを哲平に貸しといてやるから…

哲平、リンを頼んだぞ。
大事にしろよ。

でも俺のとこに来たらリンは返してもらうからな。

最後に…
俺の置き土産も大事にしろよ。

 リン、ずっと愛してる… 』




トモ……大好きだよ……

トモ……私もずっと愛してる……


そして私は意識を手放した…


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