【短編】最強総長は隠れ狼姫を惑わしたい。
 迅に戸惑い、あたし自身に戸惑いながらも街の案内は続いていく。

 一緒にお昼を食べて、他の買い物も済ませて。
 最後にスーパーで食材を買って。

 終始迅はあたしだけに優しくて、何だか本当にデートしているみたいで……。


「あのさ、迅……あたしって、仮の彼女なんだよね?」

 確認せずにはいられなかった。

「ん? ああ、そうだが?」

 当然のように返ってきた言葉が何故か胸に重くのしかかる。

「じゃあなんでそんなに優しいの?」

 どうしてか迅の顔がまともに見れなくて、うつむいたまま話した。


「そこまで言うほど優しいか?」

 自覚はないのか、少し不思議がっている声が聞こえる。

「優しいよ。……迅って女嫌いなんでしょ? 今日雑貨屋さんで逆ナンされてたときみたいに、本当は女なんてうざったいとか思ってるんじゃないの?」

「……まあ、思ってるな。少しでも優しくすると引っ付いて来たり付きまとったりして来るから」

 だから基本寄せ付けないようにしてるんだと話してくれる。

 じゃああたしは?

「でもあたしには優しいよね? 仮の彼女なのに、そんなに優しくされたら引っ付いちゃうかもよ?」

 冗談っぽく言ってみる。
 本当は、今もまたつながれている手のぬくもりをもっと感じてみたいって思っているけれど。
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