【短編】最強総長は隠れ狼姫を惑わしたい。
 インターホンを鳴らすとすぐにドアが開けられる。

 さっきぶりの迅に、「えっと、お邪魔します」と声を掛けた。


「……」

 でも迅はドアを開けた状態であたしを見て固まっている。

 あたし、何か変なところでもあったかな?

「迅?」
「っ! あ、ああ。入れよ」

 首を傾げて呼び掛けると、ハッとして中に招き入れてくれた。


 迅の部屋はダークブルーでまとめられていて、落ち着いた男の人の部屋って感じ。

「座って待ってろ。今持って来る」

 言われた通りに部屋の真ん中あたりにあるローテーブルの所に座った。

 すぐに料理を持ってきてくれた迅は、自分の分も持ってきて一緒に食べ始める。

 卵がしっかり焼かれた昔ながらのオムライス。
 素朴でシンプルな味だけれど、それがむしろ温かい感じで美味しかった。

「美味しい。迅、料理も上手いんだね」
「や、上手いってほどじゃねぇけど……」

 素直な誉め言葉に迅は何だか歯切れの悪い返し方をする。

 オムライスも無言で食べているし、ちょっとおかしい。


 もしかしてあたしのあまりのダメさ加減に呆れてる?

 ……そうかもしれない。

 さっきの惨状を見れば、あたしの女子力なんて(ちり)のようなものだって分かるだろうし。
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