【短編】最強総長は隠れ狼姫を惑わしたい。
 え? もしかして仮とはいえ彼女にしときたくないとか思われてる?

 それは困る!

 まだ数日しか経ってないけれど、学校では入学式の日みたいに絡まれることがなくなって本当に助かってるのに!

 毎日あんな風に絡まれてたらあたし絶対拳か蹴りが出ちゃうよ⁉︎

 
「ん? おいリィナ、ケチャップついてるぞ?」
 
 内心戦々恐々としていると、迅に指摘された。

「え? どこ?」

 口元に触れて確認してみるけど付いている感じはしない。

「そこじゃねぇよ」

 迅は仕方なさそうに笑って、手を伸ばしてくる。
 あたしとは違う固くて大きな手が頬に触れ親指で拭ってくれる。

 口元じゃなくてほっぺとか……普通に食べていたはずなのにどうしてそんなところに付いちゃうんだろう?
 恥ずかしい。

 また呆れられる要素が増えちゃったと思っていたけれど、頬に触れた迅の手がなかなか離れていかない。

「……迅?」

 呼びかけてみても、彼の表情は特に変わらない。
 笑顔でもないし、呆れているわけでもない。

 ただ、その黒に近い焦げ茶の目に獣のような光を見た気がした。


 なに? 迅、どうしたの?

 疑問を言葉にするのも躊躇っていると、頬の彼の指が動いた。
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