【短編】最強総長は隠れ狼姫を惑わしたい。
 ケチャップを拭った親指が、あたしの下唇に触れる。

 スッとなぞるように触れたかと思うと、そのままフニフニと軽く押してくる。


 え? え? 本当になんなの⁉︎

 恥ずかしいからやめて欲しいけれど、言葉を放つ口を触られているから声が出せない。

「んっ……」

 しかも何だか変な感じにドキドキしてきて、もうホントどうすればいいのか。


「……なあリィナ……キス、していいか?」
「え……?」

 何を言われたのか一瞬本気で分からなかった。
 理解してからも、なんで? という疑問しか湧いてこない。

 キスって、好きな人にするものじゃないの?

 仮の彼女でしかないあたし。
 しかも妹みたいに思っていると言ったのは迅なのに……。


 分からなくて答えられずにいると、迅の整った顔が近付いて来る。

 あ、と思ったときには唇が触れていた。

 触れるだけで、離れて行く唇。

 離れて見えた迅の表情は艶っぽくすらあった。


 あたし、良いって言ってないのに……。


 言葉にはしなかったけれど、その思いは感じ取ったんだろう。
 少しばつが悪そうに視線を揺らしていた。

「……悪い、我慢出来なかった」
「え……?」

 何がどうなっているのか。
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