【短編】最強総長は隠れ狼姫を惑わしたい。
「湯上りのお前を見て、色っぽいと思った。すぐに抱きしめて、その柔らかそうな唇を奪いたいって」

「っ⁉」

「もう妹なんて、口が裂けても言えねぇよ」

 切羽詰まったような声に、あたしの心臓は苦しいくらいドクドクと早鐘を打つ。

 真剣で、野獣を思わせる目は怖いのに……。
 なのに、あたしは嬉しいと思っていた。


「なぁ、リィナ。今のキス、嫌じゃなかったなら……俺の本当の彼女になれよ」

 熱っぽい視線が真っ直ぐ送られてくる。

 嫌じゃなかったなら、と選択肢を与えているのに、まるで逃がさないと言っているように添えられていた手が頬を包む。


 あたしは、どうしたいの?
 分からないけれど、嫌かと聞かれたら……。

「嫌じゃ、なかった」
「じゃあOKってことか?」
「う、うん」

 迅の言う通りならそういうことになる。

 だから、まだ戸惑いはあったけれど肯定した。


 そうしたら迅は安堵したようにふわっと笑って。

「良かった。……好きだ、リィナ」

「っ! あたし、もっ。迅が、好き……」

 考えるより先に言葉が口をついて、それが言霊となったみたいにあたし自身に染み渡る。


 ああ、そっか。
 あたし、迅が好きなんだ。


 言葉にした事で、実感した。
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