【短編】最強総長は隠れ狼姫を惑わしたい。
 いつからかは分からない。

 でもきっと、仮の彼女じゃ……妹みたいな存在じゃ嫌だと感じはじめたときかもしれない。


 恋の練習にしようと思っていた。
 でも、はじめからそんなの無理だったんだ。

 恋はしてしまったら、もう落ちていくだけだから。


 トクトクと、優しく早鐘を打つ心臓。

 恥ずかしいのに、迅の顔から目が離せない。


「リィナ……」

 あたしの名前を呼びながら、また近付いてくる。

 今度はあたしも瞼を閉じて受け入れた。


 さっきよりもしっかりと触れ合う唇。

 迅の唇の柔らかさと温もりを感じて、温かい喜びが湧いてきた。

 離れると気恥ずかしくて、照れくさくて……「へへっ」とはにかむ。


「……リィナ……お前、可愛いな」

 優しく囁かれたけれど、次の瞬間には肉食獣の荒い声音になった。

「可愛すぎて、食いつくしたくなる」
「え? ――ぁんむっ」

 次の口づけは、あたしのすべてを奪うような貪るキス。

 舌が入って来て、絡めとられて、甘噛みされて……。

 息苦しくて、ちょっと怖いと思うのに……ドキドキ胸が高鳴って、嬉しい。
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