乳房星(たらちねぼし)〜再出発版

【さよならだけの人生に】

時は、夕方4時頃であった。

またところ変わって、神戸市北区藤原台にある済生会病院にて…

充希《みつき》の母親は、ここに入院していた。

三田市《さんだ》けやき台の家と病院との間は、神戸電鉄の電車で往来していた。

充希《みつき》は、朝9時頃から夕方4時までは病室にいる母親の看病をしていた。

夕方4時が来たので、充希《みつき》はやさしい声で『もう帰るね。』と母親に呼びかけた。

充希《みつき》が病室から出たあと、母親はぐすんぐすんと泣いていた。

またところ変わって、三田市《さんだ》けやき台にある麗斗《かずと》夫婦の家族が暮らしている家にて…

家の台所には、ゆみさんがいた。

ゆみさんは、買い出しから帰って来た大番頭《おおばんと》はんが持っていたエコバッグの中身をひとつずつ取り出したあとテーブルに並べていた。

メモ用紙に書かれている品目をひとつずつ確認していたが、ひとつだけ買い忘れていたのがあった。

ゆみさんは、向かいの広間でテレビをみながらごろ寝している大番頭《おおばんと》はんを呼んだ。

「おとーちゃん!!」
「なんやねん…」
「ちょっと台所ヘ来てよ!!」

大番頭《おおばんと》はんは、つらい表情で台所にやって来た。

「なんやねんゆみ…」
「なんやねんじゃあらへんねん!!おとーちゃん!!ひとつ買い忘れていたのがあったわよ!!」
「なんやったかいのぉ〜」
「おとーちゃん!!きょうはよせ鍋を作るというたのよ!!」
「鍋の材料は、これだけあったら十分やん。」

ゆみさんは、ものすごく怒った声で大番頭《おおばんと》はんに言うた。

「ゆみは、鍋の具材がひとつたらんとは言うてへんねん!!」
「せやけどな…」
「おとーちゃん!!」
「なんやねんゆみ…」
「鍋つゆのもとはどないしたのよ!?」
「鍋つゆ?」
「よせ鍋のつゆを買うのを忘れていたわよ!!」
「えっ?そんなんあったのかな…」
「あのね!!鍋のしめに食べるチャンポン(めん)を入れるから鍋つゆのもとがいると言うたのよ!!」
「ゆみ…こらえてーな…わしはわざと忘れたわけじゃあらへんねん…」

ゆみさんに怒鳴られた大番頭《おおばんと》はんは、泣きそうな声で許しごいをした。

大番頭《おおばんと》はんは、イワマツのメンバーから離れた翌日からヒューマンエラーをくり返すようになった。

買い出しを頼まれた時に、メモ用紙に書かれている品目を買わなかったり違うものを買うなどをした…

おつりの金額が少ない時が多い…

大番頭《おおばんと》はんは、他にもヒューマンエラーをやらかした件数がたくさんあった。

そのたびに、ゆみさんからどやされてばかりいた。

大番頭《おおばんと》はんは、この時少しずつだけど認知症につながる症状が出てきたようだ…

この状態では、イワマツのメンバーたちと再合流することはかなり厳しくなったようだ。
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