乳房星(たらちねぼし)〜再出発版

【いっそセレナーデ】

時は、午後2時半頃であった。

またところ変わって、JR門司港駅の前にある広場にて…

企救丘《きくがおか》から逃げ出した私は、ぼんやりとした表情で広場のベンチに座って考えごとをしていた。

私はまた、職場放棄《かってなこと》をしたあと逃げ回ることを選んだ。

来日した時(1994年10月頃)から今までの間に職場放棄《かってなこと》を繰り返していた。

ひとつの仕事に集中して取り組めない…

気に入らないことがあれば、上の人にボーゲンを吐くなど…勤務態度が悪い…

なんで私は、こなな悪い人間になったのか…

その前に、私は日本《このくに》に来たこと自体が間違いであったことに気がついた。

最初に職場放棄《かってな》ことをしたあと、真っ先にニュウカン(入国管理局)へ行けば、こななひさんな目に遭うことはなかった…

よくおぼえてないけど、たしか1994年10月3日の朝8時過ぎだったと思う。

私はその時、大阪池田市桃園《おおさかいけだももぞの》にある零細工場に就職したけど、わずか数十分でやめた。

やめた原因は、上の人にボーゲンをはいたことである。

「なんやオドレ!!今オレになんて言うた!?」
「ワシは勝手なことをするなと言うただけだ!!」
「ふざけるなクソガキャ虫ケラクソバカ!!やるんか!!」
「バカとはなんや!!」
「バカをバカと言うたらいかんのかクソあほんだら!!」
「オドレぶっ殺してやる!!」

上の人は、工場内にあったチェーンソーを手にしたあと、ワーッと叫びながら私に向かって行った。

私は、その場から逃げ出した.

上の人は、チェーンソーの電源をオンにしたあと私を追いかけていった。

「主任、やめてください!!」
「危ない!!」

上の人は、止めに入った従業員さんたち数人をチェーンソーで切りつけて殺した。

その後、工場の外へ出た。

その頃、私は国道176号線を走って兵庫県側へ逃げた。

(ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ…)

防災行政無線のスピーカーから発した強烈なブザー音が鳴り響いた。

ブザー音は、猪名川《かわ》の西側の兵庫県側にも響いた。

工場の作業員の男がチェーンソーを振り回して暴れているので警戒してくださいと言うアナウンスが聞こえた。

(ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン…)

この時、兵庫県警のパトカー10台が猪名川にかかる橋に到着した。

その後、パトカー10台が橋を封鎖した。

その間、私はめちゃめちゃに走って逃げ回った。

午前11時50分頃であった。

職場放棄して逃げ回っていた私は、阪急宝塚駅に到着した。

その後、コインロッカーの中からショルダーバッグを取り出して身障者用トイレへ行った。

身障者用トイレで着替えを済ませた私は、作業服と雇い入れ通知書をゴミ箱にほかした。

(ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…)

その後、私は阪急今津線の電車に乗って今津駅へ向かった。

その間に、チェーンソーをふりまわして地区で暴れていた男が国道176号線の猪名川にかかる橋の上で兵庫県警の特殊部隊の警察官たちが持っていたマシンガンで射殺《ころ》された。

(ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー…)

阪急今津駅に電車が到着したのは、昼1時前ぐらいであった。

この時、雨がザーザーと音をたてて降っていた。

電車を降りた私は、国道43号線を歩いて大阪方面へ向かった。

冷たい雨に打たれている私は、井上陽水さんの歌で『いっそセレナーデ』を震える声で歌いながら歩いていた。

オレ…

来た場所《ところ》をまちごーた…

日本《このくに》のどこに行っても…

オレの居場所はない…

明日…

ニュウカンへ行こう…

ニュウカンへ行って、出国手続きを取ろう…

生まれた国がどこか分からないけど…

とにかく日本《ここ》はイヤや(大激怒)
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